パリ オルリー空港から南へ約一時間飛びますとスペインとの国境近くにToulouse(トゥールーズ)という大学都市があります。
そこから、登山鉄道に1時間と少し揺られて、その後、大きなバンに乗り換えて 山の奥を入っていくと、トウモロコシ畑と小麦畑しかない村 La Forge, Sainte-Colombe-sur-l’Hers(サント=コロンブ=シュル=レール、ラ・フォージュ)という集落に到着できます。
その昔、ポーランドからここに移り住んだ彫刻家 Nicolae Fleissig(二コライ フレッシグ)がおり、沢山の面白い石の彫刻を作っておりましたが、今にも息を引き取りそうだからというので、
カメラと録音機などを担いで、その村を訪ねました。
車で山間を抜けるときに、確かに岩切場のようなところがあり、材料の調達には事欠かさなかったのだろう、と想像します。
本当に何もない山間の村。
僕は、この撮影のために、「養蜂噴煙器(ようほうふんえんき)」というものを買ってきた。
これは、僕が初めて特殊撮影のためにスタジオで使った小道具で、金属の筒に新聞紙などを入れて火をつけて燃やし、取っ手にはポンプが着いていて、酸素を筒の中に送り込み、簡単にモクモクをした煙を焚くことができる。
本来は、この煙を養蜂の蜂の巣に向けて吹き出して、一時的に蜂を追い出すという、昔ながらの道具です。
ニコライさんは、ヘビースモーカーで、尚且つ石などの粉塵で肺の病に侵されています。
その噴煙器の煙は、彼がアトリエにいた証というか、「そこにいたね」というエフェクトです。
彼は、ずっと自宅のベットに寝ていましたが、一緒にピザを食べたり、チキンをかじったりしながら、最後の力を振り絞ってマイクに向かって声を残してくれました。
「石の記憶
動きの記憶
アーティストの記憶
人間の記憶…
これらすべての記憶…」
これが、最後に録音機に残せたニコライの言葉となりました。
「そうか、彫刻家でも、動きを見ているだな」とか、純粋に思いながら、撮ってきた画を編集をしました。
画は動いているような、止まっているような静かな絵の連続です。
編集は、まるで背中にニコライさんの霊が張り付いていて、コックリさんをやっているように、フィルムの順番を選んだり、テンポに少しずらしてカットしたりしてきました。
そんなカットの積み重ねから、彼の強い一生や優しい作家性を感じ取ってもらえたらいいなと思っています。